降り注ぐ罪に彩られた
限られた空間内では、音は逃げ道を失って屋外よりもずっと長く、重く響く。
響いた音が反響する間、動く者はなかった。
ただ、銃を構えた姿勢のまま呆然と立っていたスザクの口唇が、小さくルルーシュの名を音も無く紡いだ。
その瞬間ぐらりと揺れた目の前の身体に、銃をその手にしたまま駆け出す。
鳴った銃声は一発だけ。
スザクの銃からは間違いなく発砲されている。
とすれば。
「ルルーシュッ!!」
倒れる身体を正面から抱き留めれば、力を失った彼の手から銃が滑り落ちた。
軽い、乾いた音につられて目線を動かせば、嫌でも目に入る無機質な殺傷道具。
……音が、軽い…?
「…まさか…」
「撃てる…わけ、な…だろ…?」
いつものように少しだけ皮肉を込めたような彼の笑い顔は、すぐに痛みに歪んだ。
自らのパイロットスーツが彼の血を吸って紅に染まっていくそれは、記憶を呼び起こされる色だ。
父の。
ユーフェミアの。
敗戦国として混沌の中にあった日本の。
「何故…!」
「…生き、ろと…」
ルルーシュの口からは既に途切れ途切れにしか声は発せられない。
紡がれる音を一音も聞き逃さないように、繋いでゆく。
ギアスをかけた、と。
だから殺せなかったと。
そういうのか君は。
それならば…
「じゃあ何故弾倉が…」
「……さぁ、な…」
ルルーシュは相変わらず嘘が下手だ。
最後まで騙しきれない危うさと優しさを持った、あの頃の、七年前のままだ。
そんな、完璧を装いながらも不完全な君が好きだったのだけれど。
「…サクラダイトも嘘だったね」
ナナリーが奥にいるならば、彼女を巻き込む事をするはずがない。
何よりも、自分の命よりも大切に慈しんできた存在だ。
彼が唯一、譲れない存在である彼女を脅かす事をするはずがないのに。
完全に力を失って、抱える腕に全体重を預ける彼の姿に、今更ながら気づく。
―――本当に君は、肝心な事だけは嘘が巧いんだから。
ただ一つだけ、心の奥底に仕舞っておいた唯一のもの。
失いたくなかったそれを見失っていた事にも、気づかせない程に。
「俺も好きだったよ、ルルーシュ」
徐々に冷たくなっていくその身体を抱き締めて、瞳を閉じる。
あまりにも一瞬だったこの想いの交わる先は、何時であろうとも目の前の彼の元でしかない。
全ては遅すぎたと、分かっていたけれど。
END
2007.07.31