LOST HEAVEN


何度となく対峙した仮面の下、カツンと軽い音を立てて落ちたその下から現れたのは、


「…信じたくは、なかったよ」


他でもない、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
世界に忘れ去られた皇子。
そして、スザクにとって誰よりも大切な、愛し過ぎる人。
愛していたからこそ、彼が彼でいられる世界を望んで力を手に入れた。
ルルーシュが手を染めなくてもいいように、綺麗な世界でいられるように、内側からの変革を望んだ。


その結果が―――これか。


「俺も信じたくはなかったよ、枢木スザク」


ふと見せたその表情はスザクには見せた事の無い物だった。
確かに再会したルルーシュは七年前の印象とガラリと変わっていた。
しかし、その違和感とはまた違ったものを感じる。


「ルルーシュ?」
「呼んだな、その名を」


にやり、と笑ったその顔に寒気が走る。
ルルーシュの仮面を被った誰かが笑みを浮かべた、そんな印象だった。
いつもルルーシュがスザクへ向ける笑顔のどの種類にも当てはまらない。


「返してもらおうか、彼を」
「…何を言っている?」


薄い笑顔を浮かべたまま背面の扉に手をかけるその行動に、引き金に手をかけた手に力を籠めた。
いざとなれば、撃つ覚悟を持ってきたのだ。
今更、躊躇うなんて事はない。
彼を殺して、そして自分は―――


「賭けは私の勝ちだ!」


開いた扉はゼロの開けた物ではなかった。
軽くノックを1回。
それだけしかゼロはしなかった。
それでも、扉は開かれていく。


「選択はなされたよ、枢木スザク」
「V.V…?」


開いた扉に見えたものは、スザクがアヴァロンで見た子供の姿だった。
ギアスの力、ユーフェミアの奇行、その原因、その引き金。
夢物語のようなその事実を、酷く冷静にスザクへ語った白い子供が、そこにいる。
そして更にその奥。


「う、そ…だ!」


見慣れたと言うには愛し過ぎるそのシルエット。
見間違えるはずがない。
力なくナナリーの車椅子へともたれかかるのは、間違いなくルルーシュの姿。


じゃあ目の前にいるこの男は―――


「待てゼロっ!」
「最後までルルーシュを信じきれなかったお前の負けだ。そしてお前を信じたルルーシュもまた敗北した事になる」


銃を持つ手が震えて止まらない。
ルルーシュとナナリーの方へと足を向ける彼に向かって引き金をひく事は出来なかった。
最悪、奥にいる彼らに銃弾は当たってしまう。
撃つと決めた覚悟が簡単に揺らぐ姿に、どうしても撃つ事が出来ない。
照準を定める事すらまともに出来る状態ではなかった。


「残念です、スザクさん。スザクさんならお兄様達を見極めてくださると思っていたのに」
「ナナリー…?」
「やはり世界は一度壊さないと駄目みたいですね、お兄様」
「だから言っただろう」


ナナリーへ向ける優しい声色のゼロの姿に、ルルーシュの姿が重なる。
ただスザクへと向けるゼロの眼差しだけは、突き刺さるように鋭い。
紅く反射しているように見える片目は、スザクに対する感情の表れだろうか。


「さよなら、スザクさん。きっと―――永遠に」


ゼロが抱き上げたルルーシュの身体は、完全に力を失っているようで瞳を開く事もない。


「ルルーシュっ!!」


スザクの声に応えるかのように一瞬ぴくりと動いたその瞼は、ゼロによって遮られ、もう姿すら彼の背に隠されて見る事も叶わない。
誰よりも近くにいた、いたと思っていた彼の姿が。


「お前はユフィの騎士と生きればいいさ」


ルルーシュと同じ声、同じ顔、同じ姿。
ゼロがわざと見せたルルーシュとしての仮面を被ったその言葉は、今の精神状態のスザクには受け止めきれなかった。


「―――ああぁぁぁぁっ!!!!」


叫ぶ声は言葉にならず、ただ慟哭だけが狭い空間に響く。
途切れる事のないその声に、ルルーシュは耳を塞いで、声を押しとどめて、そして―――精神を殺した。





時をあの時に戻せたなら、その時選ぶ選択は


END



あとがき(反転)

「信じたくは、なかったよ」を聞いた時に「俺も信じたくはなかったよ」というフレーズが浮かんで、いつか書きたいと思っていたゼロルル別人ネタ。
勢い一発1時間仕上げブツなので、粗が目立ちます…すみません
双子モノは世間に氾濫してるけど気にしないことにしました(笑) だってゼロとルルが別人で皇子モノとか良すぎる。
それで皇子騎士ものだったら更に良い!(逝ってきてヨシ!)
この場面使っておちゃらけネタもいいと思いましたが、とりあえず正統派で雰囲気のままシリアスモードで。
いつかおちゃらけやりたいです。


2007.10.18