契機。
「ルルーシュ、好きだよ」
「俺もだよ、スザク」
「………あのー…場所考えてくれませんかねぇ」
学園生活の中で、昼休憩は貴重な休み時間だ。
拘束された一日で一番長く許された自由時間。
早めに昼食を取って外で走り回っている者もいれば、教室内でお喋りに興じる女子達の姿もある。
空腹が満たされて、窓越しに差し込む暖かな光に眠気を誘われそうにもなるゆったりとした時間の流れ。
しかしその空気を吹き飛ばすかのような問題発言を毎日のように繰り広げている二人は、リヴァルの言葉に首を傾げるのだ、何故か。
「何で?」
「何がだ?」
「…もういいです……」
この二人に何を言っても無駄だなぁ、と諦めながらも、こう毎日だとさすがに何とかして欲しくなる。
最近は昼食を一緒に取る事が減っていたのだが、相も変わらずだったらしい。
どうりでルルーシュとスザクのテーブルの周りには、バリアでも張られているかのように綺麗に人がいないはずだ。
あまりの二人の世界っぷりに、実は一度思い切ってスザクに尋ねた事がある。(ちなみにルルーシュには怖くて聞けなかったからだ)
「正直な話、どんな関係なわけ?」
「見たまま、友達だよ」
キラッキラの笑顔で答えられて、リヴァルにはそれ以上の質問はとてもじゃないが出来なかった。
『見たまま、友達』なんてどこをどうみたら『見たまま』になるのか、理解不能すぎてついていけない。
そのスザクの真意がどこにあるのかはさておき。
―――ホント、どう思ってるんだろう。
何がといえば、『好きだよ』と自分が告げる度に笑顔で返してくるルルーシュに対して。
その言葉はいつも突然ルルーシュへと向けられるというのに、驚くでもなく平然と返してくるのだ。
驚いた反応を見せたのは、最初にその言葉を使った時くらいだろうか。
ルルーシュに対して使う『好き』には、いつも違う意味を含んでいる事も知らないからこその、友達としての顔。
そんなルルーシュを見る度に、ほっとする反面全てを壊したくなる時もある。
穏やかで優しい関係を続けるには、きっと自分の気持ちが育ちすぎているのだ。
暴走しそうになる気持ちを抑えて、今日も笑顔で告げるのだ。
「好きだよ、ルルーシュ」
―――本当に何を考えているんだろうな、あいつは。
気軽に『好きだ』と自分に告げてくるスザクに対して。
その言葉を聞く度に、心拍数が上がりそうになるのを必死にこらえて友達としての顔を作る。
それがどれだけ辛いか、きっとスザクは知らないだろう。
いや、知られてはいけない。
知られれば、友達としての位置まで失ってしまう。
それはスザクの傍にいられなくなる事と同義だ。
それが怖くて、いつも何でもないように『俺もだ』と告げるしかない。
告げる言葉に、想いを込める事を耐えて。
だから、『好きだ』なんて言葉は、口には出来ない。
「ルルーシュ、好きだよ」
「俺もだ」
いつもの言葉遊びだ。
『好きだ』と告げるスザクに、同意を返すルルーシュ。
ルルーシュの作った弁当へと手を伸ばしながらのその言葉に、ルルーシュもスザクを見る事無くその言葉を返す。
ただ、今日は違った。
確かに手は弁当へと伸ばされているものの、スザクの目線はルルーシュへと向けられている。
もちろん、それにルルーシュが気付く事もない。
「ねぇ、ルルーシュは好きって言ってくれないの?」
「だから俺もだって言ってるだろう」
「そうじゃなくて、『好き』って聞きたいな。駄目?」
珍しく食い下がるスザクに、一瞬の間が生まれる。
望むその一言を、軽くスザクへ向けてやればきっと納得するのだろう。
けれどその言葉はルルーシュには重すぎて、軽くなんてスザクに向けられない。
「…そういう事は、本当に好きな相手に頼んだらどうだ」
「……そう、だね」
スザクの反応に、ずきりと何かが痛む。
寂しげなその声は、本当の好きな相手からはその言葉が貰えないという事だろうか。
だから望むのだろうか、身近な存在である自分に。
そう思うと、いつものスザクの言葉がやけに耳に響く。
「…ルルーシュ、僕の事好き?」
「だから!そういう事は俺じゃなくて本当に好きな…」
俺の話を聞いていたのか!と言わんばかりの勢いのルルーシュに、真剣なスザクの声が被る。
「ルルーシュに聞きたいんだ」
そのスザクの声に、息が詰まる。
声がまるで鎖になったように動けない。
気付けば箸を落としていたルルーシュの手に、スザクの手が絡まる。
「ねぇ、僕の事好き?」
「っ!」
耳元で囁かれる声が全身へと回って、重なった手がびくりと反応を返した。
「僕はルルーシュが好きなんだ。ずっと、触れたかった」
視線が絡まり、距離が詰まる。
スザクの紡ぐ声が吐息となってルルーシュの口唇へと触れると、まるで誘われるようにルルーシュの口がスザクの待ち望んだ言葉を紡いだ。
そのたった二つの音が、僅かに存在していた間さえもゼロにして、口唇が直接触れる。
ルルーシュにもたらされたものは優しく触れるようなキスではなく、噛み付くような接吻。
まるで全てを奪いつくすかのように遠慮の欠片もなく口内を弄るスザクの舌に、ルルーシュはただ翻弄されるしかない。
気がつけばスザクのシャツに縋るようにしがみ付いて、身体を支えるのがやっとだった。
「…すざ、く」
酸欠になりかけたギリギリのところで、その翻弄から解放される。
あまりのタイミングの良さに、ある意味腹が立つ。
「ごめん、もう一回していい?」
「ちょっと待……んっ…あ」
「…いい声」
「っ!」
低く響くその声に抵抗を塞がれて、深い緑の瞳に全てを吸い取られていった。
「ルルーシュ、好きだよ」
「あぁ」
「あれ?ルルーシュどうしちゃったの?急に冷たいじゃーん」
飲みきった紙パックを潰しながらリヴァルがからかう様にルルーシュへと視線を向けても、その表情は普段と全く変わらなかった。
今までどおり、無表情で弁当へと手を伸ばしている。
「ルルーシュも僕の事好きだもんね」
「はいはいそうだな」
明らかに反応の悪くなったルルーシュに対して今まで以上に笑顔を絶やさないスザクという、ある意味変化の起こった二人の行動に、リヴァルは首を傾げるだけだった。
あとがき(反転)
もっとじっくり書く予定だったのですが、くるるぎさんが暴走しました(爆)
というわけで、おまけ
「だからところかまわず言うのはやめろと言ってるだろう!」
「だって好きだから仕方ないじゃないか。別に前も言ってた事だし」
「今はやめろ!」
「…感じて困る?」
「―っ!帰れ!」
「嫌だよ。せっかく今日は泊まれるのに」
「泊めてやるなんて言ってない」
「あ、そっか。じゃあ一回帰って夜這いしにこようかな」
「はしたない事言うな!」
「じゃあ泊めてくれる?」
「………」
「そんなに警戒しなくても、ちゃんと明日立てるようにしてあげ…痛っ!」
「もうお前帰れっ!!」
2008.05.02 write 05.04 up