伝統の祭り


「男女逆転祭り?」


それってどんな内容なの?と聞くまでもなかった。
スザクの想像通り、他の何でもない。
学園内の生徒の制服が男女入れ替わる、ただ単純にそれだけのイベントだ。
ただそれだけと軽く言っても、はっきり言って女装姿なんて見たくもない、むしろ歩く公害になる人物もいるのだが、ミレイ会長のお祭り気質はそんなことはお構いなしだ。


「それって全員?」
「下手すれば教職員まで巻き込まれるぞ。はっきり言って一日授業にならない」


という事は今まで一度きりの開催ではないわけだ。
最初に何を思って始めたのかまではスザクには見当もつかないが、あの会長のやる事にそんな深く考える方が厄介かもしれない。
数日前の猫事件から、スザクは彼女の性質をそう掴むことにした。
全てにおいて予想の上をいく彼女に、勝てる者はこの学園にいないであろう。


「で、もちろん…」
「お前もだぞ、スザク」


どこから用意されたのか、スザクにも女子生徒制服を一式用意されていた。
目の前のルルーシュはというと、去年のらしい制服を出してきて着替え始めている。
成長期の身体では、去年の物が着れるかが問題らしい。
さっさと制服を脱ぐと、既にスカートに足を通している。


「いや、僕はいいんだけどさ」
「…いいのか?」


スザクのさらりとした言葉に軽く驚きながらも、じっと制服を見つめるスザクの視線を追う。
その視線が自分に向けられて、ルルーシュが口を開く前にスザクが問うた。


「スカート、短いよね」
「あぁ。まぁな」
「素足なんだよね」
「たいていハイソックスだな。一般的な女生徒通りにすると」
「それで校内歩くんだよね」
「当たり前だろう。他にどこ歩くんだ」
「一日だけなんだよね」
「あぁ」
「その日授業にならないんだよね」
「そうだな…ってさっきから何なんだ、スザク。言いたい事があるなら…」


『さっさと言え』と言いかけたルルーシュの言葉は、目の前に迫ったスザクによって遮られた。
ざわりとした感覚が身体の芯を通ったと思えば、剥き出しの素足にスザクの手が滑っていて、思わずルルーシュの重心をスザクに取られる。
明らかな意図を持って撫でる手は、太股に上がってただでさえ短いスカートが更に上がった。


「放せ!」
「こんなに綺麗な足、見せたくないんだけど」
「校内全員やるんだから、そんなに…」
「気にする」
「先に言うな!…って…ぁ」


止める間もなくスザクがしゃがみ込んで、ルルーシュの足へと舌を滑せる。
そのままかりっと軽く噛めば、ルルーシュの腿に赤が散った。
その意味を知ったルルーシュは赤くなったと思ったら、今度は青くなってスザクの髪を引っ張った。


「お前、明日どうする気だ!」
「ん?ルルーシュはお休み」
「あの会長にそんな言い訳聞くと思うか?間違いなく家に押しかけてくるぞ」
「…本当に寝込めばいいんだよね?」


ぎくり、と背筋に冷たいものが走った時には既に遅かった。
ルルーシュの身体は逆らう間もなく抱えあげられて、ベッドへと落とされる。


「おい、スザク!」
「ちょっと黙ろうね、ルルーシュ」


最強の笑顔の裏に潜むモノに、ルルーシュは身震いを止められなかった。
情の篭ったこの瞳に逆らう事なんて出来るはずもない。
それでも軽く抵抗はしたものの、快楽の混ざるそれはスザクにとっては何てことない反抗で、ルルーシュはあっという間に捕えられていった―――










「えぇぇ―――――っ!!ルルーシュ休みなのぉっ!?」
「えぇ。今朝あまりにお兄様が起きていらっしゃらないので咲世子さんがお部屋に行きましたら、ベッドの上でぐったりだったそうですわ」


ナナリーの話を聞いて、女装が嫌で仮病かと疑った生徒会メンバーも心配せずにはいられなかった。
咲世子でさえ部屋にいれるのを好まないルルーシュがそこまでとは、相当としか思えない。
少し体調が悪いくらいなら、自ら部屋を出るはずである。


「折っっ角ルルーシュの写真で稼げると思ったのにぃ!」


ミレイが心底悔しがる中、メンバー内で一人遅れてスザクが生徒会室の扉を開けた。
ルルーシュの自室に入る数少ない彼の姿に、案の定メンバーが声をかける。


「ねぇ、昨日はルルーシュなんともなかったわよね。何かあったの?」
「昨日の夜からみたいですよ、体調悪いの。夜帰る時にしんどそうでしたから」


『だからいつの間にか寝てても起こさずに帰ったんですけど…』と続ければ、諦めきれないのかミレイがストラップでデジカメをくるくると回す。
その様子から見るに、ルルーシュ以外の人物に使う気はないらしい。


「ホントに昨日ルルーシュ何してたのかしら!せっかくの機会が台無しだわー」
「さぁ?何したんでしょうね」


笑顔のスザクに完全に諦めたのか、デジカメを手放したミレイを初めとして生徒会メンバーは各々教室へと散っていった。
それが要因かどうかは定かではないが、今回の男女逆転祭りは去年ほどの盛り上がりはなかったらしい。


―――そして更に、その後の生徒会室から昨年の男女逆転祭のメモリが消えていた。
某人物の部屋のゴミ箱から綺麗に真っ二つに折れたメモリがあったとかないとか。
真相は闇の中、である。





2006.11.16

色々なサイト様が既に実行済みなのは百も承知ですが、やっぱりこのネタはやっておかないと、という事で(笑)