HEAVEN 01
「終わりだ、ゼロ。おまえのやり方じゃ何も変えられない」
スザクの声が響く中で、ルルーシュの意識は冴え渡って静かだった。
彼からの言葉は冷たく怒りの混ざったもので、向けられる視線は憎しみすら感じる。
その視線にも、あの日以来冷たく凍ったままのルルーシュの心が焦る事はなく、平静そのものだった。
それはルルーシュがあのナイトメアパイロットの正体がスザクである事を知ってから、無意識に望んでいた事が近づいているからであろうか。
『すべてが終わったら、スザクに…』
しかし、それはすべてが終わってからの願いだ。
『今』ではない、今はまだ、その時ではない。
想いとは別にそう告げる自分がいて、自嘲気味に笑みを浮かべる。
それは仮面に遮られて、誰に知られる事は無い。
「…そうだな、スザク」
「おまえにファーストネームを呼ばれる筋合いは…」
ゼロの呼ぶ自らの名に、スザクは顔を顰めた。
それを気にするでもなく、カチャリと仮面のロックを外すと、躊躇いもなく素顔を晒す。
ゼロの衣服を身に纏ったまま、サラリと流れる黒髪をなびかせて立つその姿に、スザクの言葉が思わずと言ったように、止まった。
「ル…ルーシュ…?」
「あぁ」
呆然と立ち尽くすスザクに、ルルーシュは艶然と微笑んで一歩ずつ確実に距離をつめる。
もちろんスザクの手にある銃はルルーシュへと向けられたまま、下ろされてはいない。
しかし、ルルーシュにはその引き金が引かれる事がないと確信が持てた。
それ程に、スザクにとって自分という存在の大きさを理解しているつもりだ。
それがもしルルーシュの自惚れであったなら、ただ自分がスザクを信じた幸せの中で死ねるだけだ。
ゼロとしての立場から考えてはいけない事でも、ルルーシュとしての彼が心のどこかでスザクを疑う事を許してはくれない。
「な、んで…」
「何故だろうな」
そんなに震えていては狙いを定めるなど無理であろう。
銃を握るスザクの手を掴んで、ゆっくりと手を解かせる。
そうしてその手を自らの頬へと誘えば、スザクがビクリと身体を震わせた。
「大丈夫だ、スザク」
「…ルルーシュ?」
あぁ、やっとこっちを見た、なんて場違いな事を考えながら、ルルーシュは瞳を閉じてゆっくりとスザクへと顔を寄せた。
触れるだけの優しい接吻を落とし、驚くスザクの目線を捕らえる。
「スザク」
その瞳は紅へと色を変え、瞬き―――
「―――俺を忘れて、いつか俺を…いや、ゼロを…」
『殺しに来い』
―――そして、消えた。
スザクから身体を離したその時、一筋の涙が流れていた事に気づかないフリをして、ぼんやりと自分をみつめるスザクに背を向けた。
さよならと、別れを告げる言葉すら、紡げない。
噛み締めた口唇からは、錆びた味が広がっていた。
2007.06.06〜08.16 write 09.09 rewrite & up
「生きろ」ギアスをかける前設定。
続きます…。