HEAVEN 02


黒の騎士団に属していようとも、日常生活は今までどおりやってくる。
朝が来れば学校へ行って、生徒会をこなして、普通の学生としての生活も過ごさなければならない。
スザクとまではいかないものの、人並み程度には体力はあると自負していた。
だが、さすがに身体は正直で休息を訴えてくる。
時折欠伸を堪えているカレンも、大差無い状態であろう。


「おはようっ、スザク」
「おはよう、リヴァル」
「何だよ〜久しぶりじゃん。忙しかった?」
「まぁ色々とね」


軍務内容を明かす訳にはいかないスザクは、リヴァルの問いに曖昧な答えで誤魔化していた。
それが嫌味に聞こえないところは、スザクという人柄の賜物であろう。
リヴァルも気にするでもなく、そっかぁ、と納得したように会話を続けている。


「そういえばルルーシュのヤツさぁ、お前がいないからか知んないけど、授業中寝てばっかりなんだぜ〜。ちょっとは注意してやってくれよ」
「…ルルーシュ?」


きょとんとした表情をしたスザクに、リヴァルの方もつられた様な表情になっている。
そのスザクの声色は、ルルーシュに呼びかけたものでもなく、リヴァルに応えた物でもない。
視線もリヴァルへ向けられたままで、普段の彼を知っている者であれば違和感を感じずにはいられないだろう。
登校すると同時にルルーシュの元へ向かう姿を知る、クラスメイトならば。


「―――誰の事?」


落とされた言葉はほんの一言であったが、かつて無い程の衝撃がクラス中を駆け巡った。
おそらく、容疑者としての疑惑の残っていた状態のスザクが転校してきた時以来のざわめきであろう。


「何言ってるんだよ、スザク。寝ぼけてんの?ルルーシュだろ?ルルーシュ・ランペルージ」
「…ルルーシュ・ランペルージ……あぁ、ナナリーと同じ姓だね。もしかして兄弟?」
「……スザク?」


明らかにおかしいスザクの状態に、スザク自身も困惑気味だった。
ただ、気になる事がある、と言ったスザクの話を大まかに説明すればこうである。
軍務中に一部記憶の欠落が発生した。
どうやって本部に戻ったのか、どこにいたのか全く記憶になく、また記録も残されてはいなかった。
ランスロットを調べてもどこも異常アクセスなどの痕跡はない―――とこれはもちろんリヴァル達には語られなかった事だが。
また、スザクも記憶の一部欠落だけで問題点は他に見つからなかった為、一時的な記憶障害と診断されて普段通りに戻れた、というわけである。
しばらく学園に姿を見せなかったのは、ユーフェミアの命じた精密検査の為だったらしい。


「…まさか人を忘れてるとは思わなかったけど。ごめんね、ランペルージくん」
「ルルーシュでいいよ。それじゃあナナリーの事だか分かり難いだろう?―――あぁ、『くん』付けはやめてくれよ。言われなれてないから何だか違和感だ」
「あ、そうか。…えっと、ルルーシュ?」


スザクが口を挟む間を与えず、視線をずらしたまま一気に要望を並び立てる。
応えたスザクに、ちくりと刺さった痛みが、ルルーシュの胸の奥にじわりと広がった。
少し躊躇ったような呼び方は、ルルーシュの知るスザクのそれではない。
侵食されていくようなそれに抗うように、対他人用の笑顔は絶やさずに、広げている弁当へと視線を向けた。
先程から減っていないのは分かっているが、食欲が湧かないものは仕方ないと諦めて蓋を閉じる。
いつものスザクならば目ざとく見つけてルルーシュを心配するのだが、今の彼はもちろんそんな事は無く、リヴァルやシャーリーとの会話を楽しんでいる。
そんなさり気無い事にも今までのスザクとの違いを実感させられて、どうしても寂しさを覚えてしまう。
自らが選んで実行した道であるというのに。


『だからお前は甘いというのだ、ルルーシュ』


そう告げられたC.Cの声が脳内に蘇り、やけに響いていた。


2007.09.29