完璧な程の。
「上手くいきましたね」
「君のおかげだよ、ナナリー」
「いえ、スザクさんの助力があってこそです。お兄様も喜んでいらっしゃるでしょうね」
許された者しか入ることの出来ない総督のプライベートルームにおいて。
笑顔を浮かべて会話を交わすのは、総督として就任したばかりの少女と、ラウンズとしての一年を過ごしたばかりの青年だった。
そこには先程の特区会場での二人からは想像できない程、穏やかな空気が流れている。
皇族とラウンズとしての、立場の違いも感じさせない。
そこへ待っていたロイヤルプライベートラインからの呼び出しが入ると、本来ならば応えるべきはずの少女、ナナリーが逆に席を外した。
「いろいろお話したい事もあるでしょう?」
そう言った彼女の好意に、素直に甘えてスザクが回線を受信する。
『そっちは片付いたのか?』
「何とかね。君のほうこそ」
画面に現れたのはスザクが待ち望んだ、漆黒の髪を持つ黒の皇子。
彼の姿はゼロの衣装のまま、仮面だけが外された状態だった。
まだ予断を許さない状況ではあるだろうが、ある程度は落ち着いたと見ていいだろうと判断して、スザクはほっと息をつく。
ルルーシュによって綿密に計算された計画であろうと、何が起こるかわからない。
彼の無事な姿を見て、少しだけ緊張が緩んだ。
『こっちは藤堂達がうまく纏めてくれている。お前は周りが敵だらけだからな、疲れるだろう』
「まぁね。でも何とかやるよ。―――君の為にね」
『そういう事を気軽に言うな』
スザクにとっては、心の底からの本音だ。
ルルーシュの為とはいえ、今回の計画に関しては賛同したくなかった。
それはもちろん、この距離。
「あーもう辛いよなぁ…折角日本に来て会えると思ったのにこんな作戦打ち出してきて…また離れ離れじゃないか」
『これが一番な作戦なんだから仕方ないだろう』
「分かってるんだけどね。まぁその分昨日は充電させてもらったけ…」
『回線使ってそんな事言うな!切るぞ!』
「待ってごめんなさいまだ切らないでください」
画面越しの会話だけとはいえ、ルルーシュの顔を見て話せる機会はきっとこの先しばらく持てないだろう。
中派連邦との回線確保に尽力しているとはいえ、どれだけかかるかは不透明だ。
ましてや、黒の騎士団においてもスザクの存在は知らされていない。
回線を確保したところで、このように使用出来るかすら、現時点では分からない。
そうなると、この時間が過ぎれば次に彼の姿を見る事が出来るのは当分先だ。
さすがにこの短時間で、その貴重な時を終わらせたくない。
「だって一年待って、またこれで…ルルーシュ不足で今度こそ死ぬよ、僕」
『死ぬか、馬鹿』
「だから隙見て行くから待っててね、ルルーシュ」
『そんなに簡単にラウンズが来れるわけないだろう』
「何の為のラウンズ特権だと思ってるの?」
『…少なくとも、そんな事の為には存在してないな』
皇帝の為の騎士として、各国を飛び回るラウンズではあるが、スザクは現在エリア11へと派遣された身だ。
黒の騎士団がいなくなったとはいえ、そう簡単に衛星エリアに格上げされるはずもない現状であれば、その任を解かれる事はしばらくないであろう。
となれば、エリア11から勝手に離れる事は許されない。
中華連邦で何かが発生しない限りは。
『まぁ……』
珍しく歯切れが悪いルルーシュに、スザクは続きを促す様に画面に映る彼の姿を見つめる。
そのルルーシュの顔が、微かに染まった気がしたのはスザクの気のせいではないだろう。
その少しの変化もスザクが見逃すはずもなく、どくんと心拍数が上がる。
『俺もたまには会いた…』
「今行く!すぐ行くから待っててルルー…」
『人の話を最後まで聞けこの馬鹿っ!』
視線を逸らしたルルーシュが少しだけ間を置いて告げた言葉に、スザクはランスロットの起動キーを掴んだ状態で立ち上がった。
もちろんそんな事は不可能だとルルーシュにも分かっているが、スザクの勢いだとやりかねないから恐ろしい。
無茶な事でもやり遂げてしまう彼の性格を知っているからこその怖さだ。
『日本の情勢がきちんと片付いて、ナナリーの身の安全が100%保証されたら許してやる』
「それって…」
ブリタニア潰すまで無理なんじゃ…と言いたい。
『死ぬ気で日本を統治できる地位を目指すんだな、セブン様?』
「はいはいわかってますよ、僕はそっちから攻めますよ」
『そろそろエリアが切り替わるな…切るぞ』
「うん、じゃあまた。…愛してるよ、ルルーシュ」
先程と同じ返答が来るであろう事は予測して、それでも言わずにはいられなかった。
傍にいるだけが、彼の為になる事ではないとわかっている。
それでも、やはり彼の傍を離れる事は不安が付き纏うのだ。
誰よりも、魅力に溢れて人を惹きつける彼だからこそ。
『だから回線を使って……いや、』
予想通り、今度は呆れた様な表情を見せたルルーシュだったが、ふいに言葉を切った。
疑問に思ってスザクがルルーシュの言葉を待つ事、数秒。
『―――俺も愛してるよ、スザク』
「え……ルルーシュ!?」
思わぬ返事に身を乗り出した瞬間、無常にも回線は切られ画面には黒が広がるだけだった。
「―――ホント、君は僕を乗せるの上手いんだから」
バサリとラウンズの象徴たるマントを翻したその顔には、既に先程までの柔らかな印象はない。
ナイトオブラウンズの七の数字を冠する者として、ブリタニアの白き死神の呼び名を持つ者として。
そして真に忠誠を誓った主に従う騎士として、枢木スザクの姿は光差す黒き世界へと再び足を踏み入れた。
―――完璧なまでの偽りの姿を以って。
あとがき(反転)
夢を見たい共犯関係。
R/2はスザルラーには寂しい展開になってきました…。
2008.06.26