駆引き
放課後の図書室は、寂しさを覚えるほどの静けさに包まれていた。
時折聞こえるのは、ページを捲る乾いた音。
いくつかある図書館の中でも、校舎から遠く蔵書の少ないこの図書室は、試験後の開放感も相まって人の姿はない。
ただ一人、黒髪の彼を除けば。
「―――やっぱりここにいた」
音のない部屋に響いた声は、優しい雰囲気を纏った彼を表すような、柔らかな声。
その声にも顔を上げず、机上に開かれた本に目を落としたままのルルーシュは、しかし少し前からそのページは捲られていない。
いつからと聞かれれば足音が響き始めてからだ。
しかも視線の動きもないので、開いているだけな事は明白だった。
気付いていてスザクは続ける。
「借りていく?」
借りる気などないと分かっている。
案の定スザクの問い掛けには首を振って、けれど閉じる事もない。
「よく…」
「うん?」
「ここだって分かったな」
「前に学園内案内してもらった時に、好きそうな場所だなって思ったから」
時折一人になることを好むルルーシュが行きそうな場所は、案内された時に把握したつもりだ。
リヴァルにルルーシュの所在を聞かれた時、探してみるよと言ったのは嘘じゃないけれど本当でもない。
探さなくても、スザクには分かっていた。
7年間離れていても、ルルーシュの事なら。
「で、何で俺を探してたんだ?リヴァルが探しでもしてたか?」
パタン、と本を閉じて立ち上がると、スザクの方を見るでもなく本棚へと本を戻した。
是ーと応えればいいはずの問いに、無言で返したスザクは相変わらず自分を見ないルルーシュに近づく。
その足音を、気配を隠す事無く詰めた距離は、あっという間に縮まって、触れる。
「そうだって言ったら、行くの?」
「行って欲しいのか?」
はじめて絡まった視線に、引き寄せられるようにしてその腰を引き寄せた。
スザクがリヴァルが探していた事を告げれば、ルルーシュの行動は当然の事だ。
質問がおかしい事はスザク自身も分かっている。
「行って欲しくない」
抵抗もなく素直に自分の方へと傾く身体に一言だけ、告げる。
小さく響いたその声に、ルルーシュはするりと触れる彼の首に手を回した。
「なら行かない」
満足そうに笑みを浮かべたその顔に、ずるいと思いながらもスザクに逆らう事なんて出来ない。
匂い立つ様なその艶に、スザクは彼の顎を捉えると、静かに口唇を寄せた。
2006.11.05