質問と回答と、真実。
『あなたにとってルルーシュ・ランペルージの存在とは何ですか?』
例えばそんな質問をされたとしたら、こう答えただろう。
「俺達?そりゃもう親友だよなぁ、ルルーシュー」
それを聞いてルルーシュがどう思っていたかはさておき、リヴァル本人と他生徒が認めるところであった事に間違いない。
学園内には彼に憧れる存在は多いものの、彼と肩を並べられる者、何気なく言葉を交わせる者、と言われればそれはほんの一握りの人間となる。
そんな関係を持つ中でも、一際行動を共にする事が多かったのがリヴァルだった。
ただし。
この回答は数日前まで、と言わざるを得ない。
正確に日を示すのならば、転校初日から何かと話題の中心となった人物、枢木スザクの存在が発生する日以前である。
「ルルーシュ」
「わかった。」
『わかった』?
何がですか、ルルーシュ・ランペルージくん。
俺には名前だけじゃスザクが何を言いたいのかサッパリなんですけど。
と、はっきりいって傍から見ていると二人の会話は成り立っていない事が多い。
いや、二人の間ではしっかりと成り立っているのだが、言葉が断片的過ぎてついてけないのだ。
それはルルーシュの最愛の妹であるナナリーとの会話よりも、端的過ぎる。
あぁ、そうですか。
言葉なんていらないくらい仲がいいんだな、キミ達は。
そうちょっとだけ寂しく思っていたある日、ある放課後、ある新聞記事。
『生徒会メンバーへ電撃質問!』と安直なタイトルが題されたそれは、現在の生徒会メンバーが揃った時のものだ。
その中のありがちな何気ない質問。
『一番仲のいい友人は?』
その問いに、シャーリーはルームメイトの名を、ニーナはミレイを、ミレイは美人はみんなお友達よ、と本気なのか冗談なのか分からない答えを返していた。
そんな中、リヴァルが挙げたのはもちろんルルーシュの名で、ルルーシュが挙げた名もリヴァルだったりする。
ルルーシュいわく、差し障りがないだろうとの意図だったのだが、図らずともそれは校内公認の親友となった契機であった。
そんな今更な新聞記事を誰が持ち出したのか、見事にその見出しを表にして生徒会室の殺風景なテーブルに広げられていた。
その状態の生徒会室に、トップでやってきたのがルルーシュとスザクだった。
「そっか、ルルーシュはリヴァルと親友同士だったんだ」
「あの時、他に答える相手もいなかったからな」
サラリと言ったルルーシュに他意がない事は分かっているのだろう。
それでも釈然としないものを感じて、スザクはルルーシュへと目線を合わせて近づく。
「今は?ルルーシュ」
「そうだな。いないかな」
オイオイ、その答えはまずいだろう。
とリヴァルが感想を持ったその場所は生徒会室前廊下。
二人に少し遅れたリヴァルが室内へ入ろうと思った矢先、響いたスザクの声のプレッシャーに、思わず扉前へと向けていた足を止めてしまっていた。
スザクの求めている答えは明確で、ルルーシュの答えはそれを打ち砕くものだ。
あれだけ普段行動を共にしている事からして、『今は?』の問いに欲しかったのは自分の名前だろう、と思う。
思ったのだが。
「大体お前が位置しているのは、そこじゃないだろう」
んん?
何ですか、この会話の流れは。
しかも何かルルーシュの声、いつもと違いませんかね?
「…ルルーシュ、キスしても?」
はぃぃ!?
「一々聞くな、馬鹿」
ちょっとちょっとちょっと!!
聞いてはいけないものを聞いてしまった気がするんですが俺の気のせいですか!?
つまり二人の関係は親友じゃなくて…えぇぇぇ!?
という事は親友ポジションは空席?
ってそういう問題じゃないだろう、これは!
脳内はパニック状態のまま、ついに聞いていられなくなってリヴァルは禁断の生徒会室の扉を開けた。
開けた先に広がっていた光景は彼が想像していたようなものではなくて、普段どおり書類にペンを走らせるルルーシュと、その横で処理済の書類を仕分けするスザクの姿。
何の違和感もない、通常通りの二人の姿だった。
「早かったね」
「あ…あぁ、課題提出だけだったから」
ちらりと目線だけでルルーシュを見れば、いつも通りのポーカーフェイスな彼がそこにはいた。
先程扉越しに聞こえたあの声色を出したのが彼だとは、どうしても結びつかない。
ましてやあの会話の雰囲気は欠片もなかった。
「あ、リヴァル」
「?」
そのリヴァルの視線に気付いてか気付かずか、笑顔で新聞記事を広げたスザクに彼は体温が下がった感覚に陥った。
「リヴァルってルルーシュと親友だったんだってね。幼馴染の親友とじゃどっちがポジション的には強いと思う?」
にこり、と音を立てそうなほどの笑顔が、何よりも怖い事をリヴァルは知っている。
スザクとの付き合いの中ではない。
ルルーシュとの付き合いの中でである。
こんなトコロも二人似てるのかよ。
「…ソリャおさななじみミジャナイデスカ?」
「だよね」
満面の笑みを返したスザクに、先程扉越しに感じた威圧感を再び感じずにはいられない。
どんな鈍感な相手でも、理解せざるを得ないこのプレッシャー。
通じないのは恋する乙女バリアを持ったシャーリーくらいではなかろうか。
…やっぱり親友ポジションも、あの日以来返上したと思った方が良さそうです。
2007.05.14
あとがき(反転)
リヴァル視点のコメディタッチな話が書きたかっただけが、すんごく難産に。
スザクとルルーシュが出てこないのが苦痛だったみたいで、後半こんな二人の会話は予定していなかったのにクルルギさんに暴走されました。
ごめんなさい、スザクさん。私が悪かった!