二感


「は…っん…」


濡れた水温が他に音のない静かな室内に響く。
時折漏れるルルーシュの声は、艶を含んで更にスザクを煽るばかりだ。
制服のボタンは数個外されて、シャツの隙間から覗く素肌は僅かに染まり、滑るスザクの手にしっとりと馴染んでいた。


「ちょっ…ス、ザク!」
「何?」


ようやく解放された口付けに、不覚にも息が上がってしまったルルーシュは、見上げる先の人物を睨み付ける。
けろりと笑顔で流したその人物はといえば、平然と視線を上げて目を合わせた。


「お前、ここに何しに来たんだった?」
「何だっけ?」
「じゃああの机に広がってるテキストとノートは何だ?」
「何だろうね」
「何だろうじゃなくて!何で俺はお前に押し倒されてて脱がされてるんだ!?」
「ルルーシュが色っぽいから」
「理由になってないだろう!」


会話の内容は色気も雰囲気も欠片もない。
しかし視覚的な状況から言えば、誰も踏み込む事を許されない世界がそこにはあった。
この場に来て冷静な対応を取れるのは、ナナリーくらいのものであろう。


「明日テストなんだぞ。勉強教えてくれって言ったのはお前だろう」
「正確には『教えようか』って言ったのがルルーシュ」
「大して違わないだろう」
「全然違う。僕はずっと我慢してたのに、ルルーシュ平然としてるんだもん。その上部屋まで連れてこられたらそりゃ僕だって色々と限界が…」


徐々に独り言のように声が小さくなっていき、最後にはルルーシュにも聞き取れないほどまで音量が落ちた。
ぶつぶつ言いながらも、その手はまたひとつボタンを外す。
止める気配の無いスザクに、ルルーシュの方が焦りを隠せない。
別にこういった行為が初めてなわけではないし、嫌なわけでもない。
しかしいくら学園生活で枠外の部類に入る―本人の自覚がどうであれ―ルルーシュも、いつ誰が来るともしれない状況でコトに及ぶほどの非常識さは持ち合わせていなかった。


「テストなんていっつもいい加減に受けてるのに、それを持ち出すの?」
「それでも最低限のラインがあるだろう」
「そんなのルルーシュなら簡単でしょ」


堂々巡りの会話を切り崩せる言葉が出てこない。
焦る気持ちとは逆に、間違いなく身体は反応を返し始めて、脳内が霞んで来る。


「それとも嫌?」
「……卑怯だぞ」


スザクに直接的にそう聞かれて、『嫌だ』と答えられるほどルルーシュは強くない。
答えの分かっている質問は、性質が悪い。
しかも言うスザクの瞳は微かに揺れていて、ルルーシュの方が傷つけている気分になる。


「明日…」
「明日?」
「テスト休みに入るから、呼ぶつもりだったんだからな」


案に自分も我慢していた事を伝えて、スザクの背中に手を回した。
既にそんな事を実行できる状態になくて、芯に篭る熱はルルーシュの意識を徐々に犯してきている。


「責任取れよ?」
「喜んで」


アメジストの瞳に欲を浮かべてとろりと熔けそうな笑顔を向ければ、甘い接吻をひとつ落とされた。





2006.11.23