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「セキュリティのチェックは済ませてあります。警備もいつものように配置しました。明日の朝は…」
「スザク」
「はい」
ルルーシュの肩から上着を取り除きながら、スザクはその姿勢を崩す事無く、手を止める事もない。
異例な方法をもってブリタニア皇帝の地位となったルルーシュには、身の回りの世話をする者が存在しない。
もちろんルルーシュにとっても必要がなかったし、他人の手を借りて日常生活を送る日々に戻るつもりもなかった。
それでも、スザクはルルーシュの身の回りの小さな事から館のセキュリティ管理まで、全ての責任を負うかのように動き回っている。
それがルルーシュは気に入らなかったりするのだ。
「自室まで来てその敬語をやめろと何度言ったら分かるんだ」
「今、自分は陛下の騎士です」
「だから俺がいいと…」
「この時間を終わらせる為の契約をいただけない限りは、崩せません」
スザクの言葉に、ぐ…と詰まったのはルルーシュの方だ。
皇帝と騎士という、立場に自分達を置いた時に覚悟を決めた事だった。
皇帝とは唯一の不可侵の存在。
その存在に、騎士が対等な関係を結べるはずもない。
「…陛下?」
「その呼び方は、卑怯だっ」
嫌いだと知っているくせに、と言葉にする事はなくても、ルルーシュの表情からはそれがうかがえる。
その一瞬の表情の間をおいて、ルルーシュはスザクとの距離を一気に詰めると瞼を閉じた。
赤い翼の羽ばたく瞳が隠れて触れるだけの優しいキスが触れると、スザクはそれを合図とするようにルルーシュの身体を抱き締める。
触れるだけだった接吻は深く交わり、ルルーシュの後頭部を押さえて更に貪った。
「ふ…ぁ……」
艶の含んだ声と濡れた音が響く室内には、他の存在を許されないかのように濃密な空気が流れる。
ルルーシュが酸欠になる直前のタイミングを見計らって解放すると、微かに涙で膜の張った瞳が思いきりスザクを睨んでいた。
上がった息遣いとその姿にスザクとしても刺激されないわけがないが、ブリタニア皇帝の玉座に座る一ヶ月前の間に抱き潰した反省から、それを何とか押し止める。
「そろそろ慣れてくれてもいいのに…」
「慣れるか!」
先程までの空気はどこへやら、ルルーシュはくるりと反転して見るからに重たい衣装を椅子へと投げ捨てた。
ルルーシュの性格上簡単に出来ないと分かっているからこそスザクが持ちかけた約束事だったが、スザクにとっては今では素直なルルーシュの姿が見れる貴重な時間だ。
『自室では今までどおり接する事』というルルーシュの希望に『ここからは大丈夫、っていう合図をちょうだい』と笑顔で迫ったのはスザクだった。
ルルーシュが快楽の底に沈んでいる時に合図を決めたのは卑怯だとはスザク自身も思うが、そうでもしないときっと了承してくれなかっただろうと思ったからだ。
そしてそれを反故にしない辺り、スザクとしてはルルーシュとしても受け入れてくれていると信じている。
触れたくないわけではないだと。
「服はちゃんとかけないと駄目だってば。皺になるよ?」
「どうせ数回しか使わないんだ。多少手荒な扱いをしても構わないだろう?」
「…そう、だね。じゃあ」
さほど距離のなかったルルーシュの手を引けば、その身体はあっさりとスザクの腕の中に収まってしまう。
慣れたその感覚がその度に細くなっているような気がするのは、スザクの気のせいだろうか。
「汚しても平気だよね?」
「ちょっと待て!それはマズいだろう!というかなんでそれで『じゃあ』になるんだっ!!おいこら、靴を脱がすな!待てと言って…」
「却下、待てません」
「スザクっ!!」
ルルーシュはあの合図にした事を何度も後悔する事になるのだが、もちろんスザクが今更譲るはずもなく、思わぬ悩みの種となるのである。
END
2007.09.08
騎士皇帝万歳!