騎士 02
中庭で突然意識を失って倒れたルルーシュに慌てはしたが、スザクにとっては予想範囲内のことだった。
あの顔色の悪さと、引きづられ方からすれば、相当体調が悪いことくらいは気づく。
目を覚ましたとしても、ルルーシュが今日授業を受ける事は不可能だろう。
いや、たとえ可能であってもスザクはそれを許すつもりは無い。
保健室へと運んでも夕方そのままクラブハウスへ戻る事になるなら、とスザクは直接ルルーシュの部屋へと彼を運ぶ事にした。
勝手知ったる部屋だ、タオルなどの必要な物の置き場も分かる。
この状態ならルルーシュも文句を言うまい、と判断する事にした。
クラブハウス内の扉は、目の不自由なナナリーの為にかスライドドアにはなっているが、もちろん鍵はかかるように出来ている。
目の前に立ってからその事を思い出し、勝手にルルーシュの鞄を漁る訳にもいかないな…と目を手元に下ろした瞬間、その扉が開いた。
訝しげに顔を上げれば、部屋の奥には一人の女の後姿。
振り返ったのは、見覚えのある緑の髪の少女。
それは。
「君は…ゼロと一緒にいた…」
「お前は何を守るために闘っている?」
スザクの問いかけに答える事はなく、自分の存在を隠すでもない。
まっすぐにスザクに向けられた瞳は、あの時新宿で見た時の彼女とは印象が違った。
そして、ゼロと一緒にいた戦場の彼女とも。
例えるなら、水面を滑る風の静かさのような。
「何を…」
「お前の行動が、『ルルーシュ』という存在を殺す事となってもその道を選ぶのか?」
『彼女が何故ここに…』という問い掛けは出てこなかった。
飲み込んだ質問は、けれどきっと彼女には伝わっているだろう。
「それは…」
その彼女が手にしていたのは何度も見た、憎んだ、ゼロの仮面。
身近で見れば、いくつもの細かい傷が見えるそれを、スザクは何度追っただろう。
彼女がそれを手にしているという事は。
「君がゼロ…?」
「だと思うか?」
そのはずがない。
スザク自身、彼女とゼロが一緒にいた姿を目撃している。
とすれば、答えは。
「道を見誤れば、本当に大切な物は帰ってこなくなる。選択とはそういうものだ」
スザクには、部屋を出て行く彼女を止める事は、出来なかった。
2007.02.13