騎士 03
黒の騎士団の活動は激化の一途を辿った。
資金の潤沢、人員の補強、そして住民の協力体制と、ブリタニアに敗戦の確率は徐々に上がっている。
それでもやはりランスロットの存在は大きく、不利な体制化での戦闘時も確実に勝利を勝ち取る姿は、名誉ブリタニア人としての彼の立場をも変えていこうとしていた。
裏ではコーネリアと並んで、白い守護神と呼ぶ者も現れ始めている程だ。
「お前、俺が運ばれてきた時部屋にいたのか?」
「いたらあの男に正体がばれるだろう。早々に他の部屋へ移っておいた。不満か?」
「いや」
あの日、目を覚ました時にスザクの姿は無かった。
部屋にいたはずのC.Cへと聞けば、やはりスザクに連れてこられた事は間違いないらしい。
ただルルーシュのベッドへとかけられていたスザクの制服の上着だけが、部屋に残されたままだった。
あの日以来、ルルーシュはスザクに会っていない。
ゼロとして現場に出ても、巨大化した組織の中では前線で戦闘に出る事は少なくなる。
それに加えて、相変わらずの不眠症と摂食障害は否応無しに体力の低下を引き起こしていた。
さすがに作戦に穴があくような事はないが、パイロットの補充が入る中、前線の権限を高く持ち始めたカレンはゼロの不調を敏感に感じ取ったのだろう。
その機体を指揮に専念する事を理由に前線から外す事を提案した。
実際に激化する戦闘に耐え得る体力と、何より腕を持たない事をルルーシュ自身も分かっていた為、カレンの提案を受け入れ現在は後方での指揮に専念している。
そして、数箇所で同時展開する活動の中、ランスロットの出現ポイントには後方に位置するゼロの姿は見つけられなくなっていた。
ランスロットと対峙する事を、ルルーシュは無意識に避けていたのかもしれない。
しかし、ゼロを捕えたいブリタニアとしてもいつまでもそんな事を許してくれるはずもない。
あの日から数週間が経った頃にゼロが訪れたポイントには、白い機体の存在が確認された。
ブリタニアの守護神、ランスロット。
―――枢木スザク。
「ゼロ、君だけに話がある。出てきてくれないか」
『その為にここまで来た』と言われて、ルルーシュは仮面を手にした。
既に敗戦は避けられない状況となり、組織には甚大な被害が出ている。
扇には脱出ルートの指示を出し、撤退までの時間稼ぎを引き受ける事にしたのだ。
もちろん反対はされたが、ゼロとしてのルルーシュは自らが前線にも出ることで士気を上げてきた。
戦闘時の前線への参加は激減したものの、統率者としての責任を放棄するわけにはいかない。
「ここまで来ておいて、どういう作戦だ?」
「ランスロット以外にナイトメアはいない。黒の騎士団は好きなように逃がせばいい。そんなものに興味は無いから」
「訳が分からないな」
それはどう考えてもブリタニア軍としての発言とは思えない、とルルーシュは辺りを索敵した。
スザクの言葉とは逆に、伏兵が潜伏しているかもしれない。
しかし、どうした事かスザクの言葉通りにまわりに敵機は見当たらない。
もちろん友軍も撤退させた為、不在だ。
「君の事だ。どうせもうこのあたりのメンバーは撤退済みだろう」
「そうだと言ったら?」
ルルーシュの脱出ルートは確保してあるものの、昔ほどのルート数と安全性はない。
地理的な問題と、そして何よりルルーシュの心理的な問題とで。
「君と話がしたいんだ、ゼロ。いや―――ルルーシュ」
2007.02.14