転機。


「ルルって、スザクくんと付き合ってないんだよね?」
「…シャーリー、またその話題か?」


聞き飽きた、と言わんばかりにルルーシュは手にした数枚の書類を丁寧にホッチキスで止めていく。


「スザクくんの隣にルル以外がいてもいいの?」
「別に」


ふーん…と納得出来ていなさそうなシャーリーの呟きは無視する事にした。
それよりも、目の前に広がる書類の方がルルーシュにとってははるかに問題だったからだ。
今日締め切りの書類の山を見た時の脱力感は、今でも響いている。


そんな会話を二人が交わしたのがほんの少し前。


今現在のルルーシュはといえば、出来上がった書類を両手に抱えてまま廊下に立ち尽くしていた。
放課後も最終下校近くの時間ともなれば、人通りは少ない。
廊下で立ち止まっていても、迷惑する生徒は皆無だ。
しかしそのルルーシュの視線は、向かう廊下の先ではなく、中庭へと向けられた窓の方向。
部室もグラウンドもないその場所は、人目を避けて授業をサボる絶好の場所だったりする。
かくいうルルーシュも使った事のある場所だ。
身動き一つしないルルーシュの、視線の先にいるスザクと共に。


―――クラスメイト…じゃないよな。


窓ガラスは閉まっている為に、もちろん声は聞こえない。
ただ、色恋に鈍いルルーシュでも分かるほどお決まりのシチュエーションの内容はと聞かれれば、間違いないと見ていいだろう。
少しだけ困ったようなスザクの顔が、ずきりと痛んで正視出来ない。


どうして、胸が痛むんだ?


『スザクくんの隣にルル以外がいてもいいの?』


先程は分からなかったこの言葉の本当の意味が、どくりと跳ねる心臓の音に呼応するように蘇る。
それはつまり、あの笑顔を自分以外に向けられる事、あの声が自分以外の誰かの名を紡ぐ事。
隣にあって当然であったものが、全て他の誰かの為に存在る事になるという事。


「ルールー!こんなトコで何……ちょっとルルっ!? どうしたの?」


シャーリーの声はもちろんルルーシュにも聞こえていたが、どうしても流れる涙は止まらなかった。
スザクは恋人でもなくて、ただの友達で、だからあの女子生徒に対してこんな感情を持つ事を許された立場じゃない。
じゃあこの涙は何だ?


「ねぇ、ルル!」


止まらない涙は、自覚のなかった想いを代弁するかのように溢れてくる。
スザクに対する、醜いまでの独占欲とそれを求める恋心。


―――この涙の意味を、知りたくなんてなかった。



あとがき(反転)

…幸せスザルルを書く為のカテゴリーだったのに…何故。
しかしベタベタ展開ですみません…でも楽しい(爆)


2007.10.28