嵐、襲来。


何でこんな状態になっているかと言えば、ルルーシュが約束どおりの時間に起きてこなかったのが原因だった。
嫌な予感がしてスザクが早めにルルーシュ宅へ来てみれば、ナナリーから聞かされたのは彼女がまだベッドの中という事。
時間に正確なルルーシュにしては珍しい事だ。


「約束されてたんですか?」
「うん。買い物に行く約束をね」
「じゃあスザクさんが起こしてきてください。折角ですから」


何が折角なのだろう、と問うまでもない。
ナナリーのお墨付きで、ルルーシュの寝顔を見るチャンスをくれたという事なのだろう。
そして階下にナナリーがいる状態で、同時にルルーシュの身の安全も確保したことになる。
とは言ってもある程度は、だが、そこはナナリーの信頼も得ていると取っていいだろう。


なるべく音を立てないように何度か訪れた事もあるルルーシュの部屋へと足を踏み入れる。
入る前に扉の前で気配を探ってはみたが、やはりルルーシュは起きてはいないようだ。
あまり寝顔を見ているのもマナー違反だろうと、とりあえず起こす事を最優先で一直線にベッドへと近づく。


と、そこでスザクが止まった。


目線はベッドの住人へと釘付けのままだ。
そこから覗くのは漆黒のさらりと流れる短い髪。


が、二人分。


「…ぅん…?」


刺さるほどの視線と凍りつくほどの気配に、さすがのルルーシュも気づいたらしい。
ベッドの中でもぞりと微かにその身体が動く。


「……うわっ!スザク!?」


彼の姿に気づいたルルーシュは、胸の辺りまで下がっていた掛け布団を反射的に上げた。
さすがの彼女でも恥ずかしいらしい、その顔が心なしか赤い。
しかしその反応、顔を赤くした事ではなくその前の行動に面白くないのはスザクだ。
ルルーシュへと向ける目線が思わず強くなる。


「へぇ。僕には隠すんだ」
「スザク?」


スザクに関して、時折有り得ないほどの鈍さを発揮するルルーシュであるが、この時ばかりは彼の様子に首を傾げた。
明らかにスザクの態度がおかしい事に気付いたらしい。


「ん…」
「え?」


ルルーシュの背中側から聞こえた声に、部屋の主であるルルーシュが初めて気づいたかのように振り返る。
そこにいるのは、スザクよりも明るい、ナナリーと同じような色の髪を持つ少年。
年齢はルルーシュより少し下、ナナリーと同じくらいだろうか。
少なくとも、スザクは初顔の存在だ。


「ロロ!何で!?」
「んー、もうちょっと寝てようよ、ルル」


彼の手が、言葉と同時にルルーシュを引き寄せるように腰へと回される。
その行動と馴れ馴れしく呼ばれるルルーシュの名前に、スザクが握り締めた拳は後から見てみれば掌に傷が出来るほど強いものだった。
それほどの怒りを抑えて、スザクはルルーシュへ背を向けて部屋を後にする事しか出来ない。
これ以上見ていたら何をするか分からない自分を、コントロール出来なかったからだ。
ルルーシュが同意の上というなら、スザクに口を出す権利はない。


「ゃ、いやだっ! スザ…」


そのルルーシュの声に、名を呼ばれた瞬間ベッドの中から―――いや、正確にはロロと呼ばれた彼の元からルルーシュを抱き上げる。
背を向けていたはずのスザクの一瞬の行動に、ロロはびっくりしたように言葉を失った。


「誰?」
「従弟のロロ」


出来るだけ冷静に、と自分に言い聞かせて優しくスザクが問えば、幾分かいつもより弱い声が腕の中から返ってきた。
初耳なその名を、スザクのブラックリストにトップで掲載すると、ルルーシュを安心させるように腕の力を強める。


「いくら身近な親戚でも、女性のベッドに潜り込むのは感心しないよ」


ニコリと音を立てそうな程の笑顔を浮かべて言うスザクの腕で、ルルーシュは大人しく抱きかかえられたままだ。
抵抗するでもなくスザクの首へと手を回して身を預ける彼女に、ロロは思わず溜息をつく。


「仕方ないなぁ。とりあえず今日は戻るよ、ルル」


明らかな宣戦布告。
静かに火蓋が落とされた戦いから、スザクももちろん逃げる事はしない。
受けてたとうじゃないか、と交わされた一瞬の視線に乗せた答えは、きっと相手にも伝わっているだろう。


「でもベッドに入られても気づかないなんて、心配で目が離せないんだけど」
「だ、だってロロとは昔一緒に寝てたしっ!昨日夜に遊びに来て、喋ってたらいつの間にか寝ちゃってて…!」


そういう事か、とスザクも思わず納得する。
ナナリーを溺愛するルルーシュは、基本的に年下に弱い。
それに血縁という要素が混ざれば、それは一層の拍車がかかる。
つまり弟扱いされている事を利用して、ルルーシュの警戒心を取り除いて、今回の事態に陥ったという事だろう。


「今度ロロが来る時には僕も呼んでね、ルルーシュ。ルルーシュの従弟ならナナリーみたいに仲良くなりたいし」
「うん、わかった」


今のルルーシュに、ロロへ警戒心をいきなり持たせる事不可能だ。
それよりスザクが警戒心を持つしかない。
朝のナナリーの様子からして、ナナリーのロロへの加担はないだろうから、彼女も協力者と見る事にする。


本当に世話がかかる、困ったお姫様だ。


「じゃあ気を取り直して出かけようか、お姫様」
「誰が姫だ!」


それでもそんなルルーシュじゃないと駄目な自分が一番重症だな、と思いつつ。




あとがき(反転)
難産でした…ロロのあの笑顔を見てから今までずっと眠ってました。
……なんでだろう。
頭の中で映像はぐるぐるぐるぐるオールフルカラーで浮かぶんだけどなぁ(笑)
文章力の無さが出る(凹)






余談。



「ナナリーだろ、あいつ部屋に呼んだの」
「もちろんです」
「折角ルルと寝てたのに」
「正攻法で攻めない方にお姉様は渡せませんもの」
「?」
「あぁ。今後お見えになる時は、アルコールは厳禁ですからね」
「…何の事?」
「お心当たりがないのでしたら、構いませんよ?」
「……敵が多いな、ホント」

2008.02.02