第一歩。
現在の時刻、深夜0時。
時間と関係なく手元も携帯電話はいくつかのメールを受信した。
受信ボックスを開いてみれば、クラスメイトからのメールが未開封で並んでいる。
タイトルにはそれぞれ言葉は違えど、『誕生日おめでとう』の言葉が続き、いくつになっても誕生日を祝われる嬉しさは変わらないと実感した。
そう、本日12/5はルルーシュの誕生日だ。
まめな友人達は明日学校で会うというのに、日付が変わると同時にこうしてメールを送ってくれていた。
ただ、その受信履歴を見て、なんとなく寂しい気分になるのは何故だろう。
―――あの馬鹿、メールくらいくれたって…。
パタンと閉じた携帯には、彼――枢木スザクからのものはなかった。
とはいっても、『彼氏』というポジションに彼が当てはまっているかと言われればそうではない。
それでも去年までは、何だかんだと理由を付け足してはメールをくれていたのだ。
なのに今年はどういう事だろう、と彼女の頭の中は友人からのメールではなく、来なかったメールに対しての想いばかりだった。
と、ふいにコンコンと鳴った窓に、びくりと身体が震える。
―――こんな時間に、誰だ?
と、またコンコンと遠慮がちに音が響く。
ルルーシュの窓はバルコニー付きのものなので確かに人の出入りは可能だ。
―――こんな時間にノックをするなんて非常識もいいところだ。
と、ルルーシュが音に対して持った感想は一般からはかけ離れたものだったりする。
それというのも、ここから出入りする人物がいたからなのだが。
「…ルルーシュ、起きてる?」
「スザク!?」
「あ、よかった。起きてた」
「起きてた、じゃないだろう。こんな時間にこんなトコから何してるんだ」
最近はきちんと玄関から入ってたじゃないか、と続いたルルーシュの言葉通り、幼い頃のスザクはルルーシュの部屋へベランダ越しに出入りをしていた。
近年ではなかった事だったが、いつからかは思い出せない。
「とりあえず中入れ。寒いだろ」
「あ、いいから。入ると我慢出来なくなりそうだし」
何がだ?と言いかけたルルーシュの言葉を遮る様に、彼女の前に出されたのは小さな箱だった。
出されたそれの意味を図りかねて、箱とスザクとを交互に見やる。
「プレゼント」
「え…?」
はい、と手の中に落とされたそれは、綺麗にラッピングされてリボンまでかけられていた。
明らかに、女性へと向けられたプレゼントだ。
「あ、ありがとう…」
「よかった。ルルーシュがまだ起きててくれて」
にこりと微笑んだ幼馴染に、ドキンと心臓が大きく跳ねた。
寒さからか仄かに赤くなったスザクの顔に、違うものを感じて言葉が詰まりかける。
「あ、明日でも良かったじゃないか。朝会うんだし…」
「そしたらナナリーから先にもらっちゃうかもって思って。一番にプレゼントをあげたかったから」
―――あぁだからそんな笑顔を向けるなって!
かぁと自分の頬が染まるのを感じて、誤魔化すようにプレゼントのリボンに手をかけて、解いた。
スザクもそれを止めようとはしなかったので、包装紙も外して、蓋を開ける。
赤いビロードの上に置かれていたのは、
「ネックレス?」
「うん、それならそんなに…」
「…緑…」
「!それは、その、たまたま綺麗だと思った色がそれで!だからその色にしたんだけど…!」
呟いたルルーシュの言葉に動揺したのはスザクの方で、じぃっとペンダントトップについた小さな輝きを見つめる彼女の姿を直視できない。
本当は紫色の方がルルーシュには似合うだろう、と思ったのだ。
ただ、その色にしたのはスザク自身の願望を込めての事で、何となく後ろめたい気分になる。
「ありがとう。嬉しい」
珍しく素直なルルーシュの言葉に、スザクの動揺は落ち着きへと変わった。
言葉と共に向けられた微笑は、思わず勘違いをしてしまいそうな程で。
「…ルルーシュ、キスしても?」
「え?…んっ」
問い掛けに答える前に、反射的に見上げたルルーシュを引き寄せて口付ける。
緩やかに、まるで溶けるように甘く。
時間にすればほんの一瞬なそれが、ルルーシュの中へとすとんと自然に入り込んでくる。
「じゃあ、また明日」
「あ、スザ…」
ひょい、とベランダから飛び降りて走り去っていくスザクの姿を、呆然とルルーシュは見つめていた。
―――そして翌日。
「あらお姉様。そのペンダントどうなさったんですか?」
「貰ったんだ。誕生日プレゼントにって…」
「お似合いです。特にその緑色がとても」
ナナリーの言葉に少しだけドキリとして、登校時間が近づく中でそれをそっと制服の内側へと仕舞い込む。
他にも装飾品をつけている生徒はいるし、アッシュフォード学園はそんなに細かい事を気にする学園ではない。
きちんと制服の中へと隠れるそれを、ルルーシュは身に着けて登校するつもりだった。
「おはようございます、スザクさん」
「おはようナナリー」
「お姉様はもう少し出来ますから。それまで私だけで我慢してくださいね」
にこやかに微笑んだナナリーに、もちろんスザクも笑顔で応える。
毎朝の見慣れた光景だ。
「しかしスザクさん、素早いですね」
「君は何を?」
「香水です。お姉様はあまり好んで使うとは思えませんが、私があげたら使ってくださるでしょう?きっとお役に立てるかと思って」
はい、とスザクへと渡されたそれは、おそらくルルーシュへあげたという香水のミニボトルだろう。
あまりきつくない香りだが、仄かに漂う香りは甘い。
「直接的過ぎるかとも思ったのですが、お姉様にはこれくらいで調度いいと思って」
「さすがだね、ナナリー」
「お任せください。スザクさんのプレゼントも素敵でした。緑色―――スザクさんの瞳の色と一緒ですね」
「僕も直接的過ぎたかな?」
「ふふ、お姉様気づいてらっしゃると思いますよ?」
「え…?」
「ごめん!スザク、ナナリー!お待たせ!」
ばたばたと靴を引っ掛けたまま飛び出してきたルルーシュに会話を打ち切られて、反射的に彼女へ向けていた視線を再びナナリーへと戻した。
けれど笑みを浮かべるだけの彼女は、すっかり妹の顔でルルーシュへと近づいている。
「お姉様、靴はきちんと履いてから出なさいってお母様に怒られたばっかりじゃないですか」
「二人が待ってると思うとつい…」
ふいと屈んで靴を履きなおしたルルーシュの胸元からは昨日までは確かになかったはずの輝きが見えて、スザクは驚いたような表情を見せた。
その視線に気づいたのか、ルルーシュはスザクへと少しだけその距離をつめた。
「どうしたスザク。待たせたから怒ったのか?」
「ううん、そんなはずないだろ」
「そうか」と微笑んだ彼女の顔が少しだけ赤かったのは、スザクの気のせいかもしれない。
ただ、昨日までとは違う何かが、近づいてきている気がした。
あとがき(反転)
こ、これ、普通にくるるぎさんが犯罪者じゃないかと…!(爆)
だって付き合ってもないのに手出してますけど!
それでいいんですかルルーシュさん!みたいな。
…なんか順番間違えた気がするけど…いっか、この二人だし(この人が一番変態です)
2007.12.05