災厄と幸福
「枢木スザクっ!!」
勢いよく音を立てて開かれた扉の向こうには、黒髪の少女の姿があった。
とは言っても、アッシュフォード学園で有名な黒髪の生徒会副会長ではない。
その名を呼んだ声は彼女のものよりずっと高く響き、腰まで伸ばした髪がさらりと揺れるその姿は、明らかに高等部の年齢には達していない。
更に一目瞭然、制服姿でもない。
「神楽耶!?」
その姿に反応したのは、枢木スザク。
神楽耶と呼ばれた少女はどう見ても日本人だったので、生徒会メンバーの誰もが納得した。
スザクの姿を見つけてずかずかと室内に入ってくる彼女は、見た目に似合わず迫力がある。
「今日は早く帰ってきて新年の手伝いをしろと言われていたでしょう!」
丁寧な言葉とは裏腹に、その口調は厳しい。
実力行使と言わんばかりにぐいっとスザクの腕を引っ張るものの、もちろん彼の身体はびくともしない。
両手でしがみ付くその様は、見方を変えればひどく親しい間柄に見えなくもない。
「だからって何で神楽耶が迎えに来るの?」
「私だけ手伝わされて腹が立つんです!」
こんな時にルルーシュがいなくてよかった、と室内の一部が思う。
そんな彼女は、十数分前に、「あの先生にはルルーシュが行くと一番早いのよ!」とミレイにより職員への書類の捺印を仰せつかい、部屋を出ていた。
そのミレイの言葉にぴくりとスザクの米神が引きつった事は、ルルーシュ本人以外は気づいていただろう。
ただ目の前の書類に阻まれて追うことは出来なかったが。
「ほら早く行きましょう!皆さん待ってるんですから!」
「皆さんって神楽耶だけで…」
「会長、書類に印鑑…」
シュン、っと無常なドアの音が響くと同時に、ルルーシュが面倒くさそうに書類を持って帰ってくる。
確かに書類に捺印を頼んだだけだからそんなにかかるわけがないと思っていたけれど。
あああぁぁぁ何でそんなにタイミング悪いの!
またもメンバーの一部が胸中で悲鳴をあげる。
「ルルーシュ姉様!お会いしたかったですっ!」
「「「えええぇぇぇっ!?」」」
予想外の展開に、ミレイとリヴァルとシャーリーが思わず声をあげた。
気がつけば、神楽耶は嬉しそうにルルーシュへと抱きついている。
スザクが阻止する暇もない。
「神楽耶、どうして…」
「だってスザクにいくら言っても、ルルーシュ姉様を神社へつれてきてくださらないんですもの」
見上げるようにルルーシュへと語るその口調は、先程とは違ってまるで甘えるようなもので。
妹であるナナリーへ向けるような目で、優しく「ごめん」と微笑む。
さすがスザクの親戚!と思わずにはいられない変貌っぷりだ。
「もちろん大晦日に初詣に行くのでしょう? ルルーシュ姉様誰かと行くご予定は?」
「え?ないけど…」
え?ないけど、じゃないでしょ!
と生徒会面々は声に出せなくても心で叫ばずにはいられない。
明らかに背後に感じるスザクの空気が悪くなってる事に、ルルーシュだけが気付かないらしい。
他メンバーは既に振り返る事すら不可能だ。
「じゃあ私と…」
「なかったけど、入る予定はあるんだ」
「予定?」
『予定がない』と言っておいて『入る予定がある』とはどういう事だろう、と神楽耶が首を傾げる。
神楽耶へと向けていた視線を上げて、生徒会メンバーの奥へ向けた。
もちろんその先には、
「……言いたい事があるんじゃないのか?スザク」
「…え?」
『今日はずっと何か言いたげだったくせに』とルルーシュの向けた視線の先には、一瞬前とはがらりと雰囲気を変えたスザクの姿があった。
向けるルルーシュの視線も、神楽耶へ向けるものと違った柔らかさに満ちていて、ほわりと笑みが浮かぶ。
「新年を一緒に迎えてくれる?ルルーシュ」
「仕方ないから付き合ってやる」
神楽耶を腕に掴まれたままスザクと二人甘い雰囲気を作り出すルルーシュに、ぷぅと頬を膨らませてルルーシュの腕を解放する。
キッとスザクへと視線を向けると、仁王立ちの姿で思いっきり力強く指を指す。
「―――っ、枢木スザク!私は諦めたわけではありませんからねっ!姉様はいつか頂きます!」
「受けてたつよ」
先程までとは打って変わって余裕の表情を浮かべたスザクは、いつの間にかルルーシュの手から書類を奪い取っていた。
その書類をミレイへと差し出す。
「書類貰ったので、ルルーシュ終わりでいいですか、会長」
「あ、えぇ、いいわよ。お疲れ様」
口調はともかく、しっかりした手で書類は受け取ったミレイにスザクは笑顔で『お疲れ様です』と返す。
机上の筆記用具を片付け、鞄を手にしたスザクを見てルルーシュが不思議そうに声をかけた。
「スザクも終わったのか?」
「うん。僕は元々書類整理に関しては戦力にならないしね」
「間違いないな」
「酷いなぁ」
言って微笑みあう。
「じゃぁお先に。また来年な」
「失礼します」
『鞄貸して。持つから』
『いい、持てる』
『ほらコート着ないと、風邪ひくよ?その間だけでも持つからちゃんと着て』
『分かってる』
『マフラーは?』
『鞄の中』
『何で鞄の中になんて入れてるの?』
『…折角貰ったの、汚れるの嫌だ』
『使う為にあげたんだから、ちゃんと使ってよ』
もう生徒の少ない校舎内で、二人の会話が微かに響く。
生徒会室内では誰もが音も立てずに、自分の仕事を放棄している。
もちろん原因は廊下の二人だ。
「……何だよ、あの会話」
呆れた様にリヴァルが。
「ねぇ、結局二人は付き合ってるの?」
とミレイ会長。
「ルルに聞いても否定の言葉しか聞けませんけど、もっかい聞きます?」
とはクラスメイトのシャーリー。
「彼女からの返事は変わらないと思うけど」
それに冷静に応えるカレンに。
「じゃあスザクくんに聞いてみるっていうのは?」
最後に解決策を提案したニーナ。
「「「やめとこう」」」
とは、前三人が即答した回答。
「…じゃあ解散っ!」
今年の生徒会年末進行も、平和のまま閉幕である。
あとがき(反転)
ギリセーフ飛込み更新。
スザクとルルーシュはちゃんと付き合ってないけど、こんな関係。
でもスザクは付き合ってるつもりで回りにアピール。
ルルーシュが自覚してくれるのを待ってます。
少女漫画王道です(笑)
2007.12.31