WITHOUT END


「スザクーお前もちょっと言ってやって」
「何」
「あれ」


ジノが指差した先には、相変わらずぼんやりとした顔で手の中を見つめるアーニャの姿があった。
平時の姿を見ていると、ナイトメアに騎乗している時の彼女が全く想像出来ない。
もちろん彼女もナイトオブラウンズの数字を冠する者だ。
見た目だけで彼女の能力を判断する事は、不可能であり、命知らずというべきだろう。
かくゆうスザクも、本来は支配される側の人種であり、異色の存在である事に違いない。


「どうしたんだ、それ」
「拾った」


そんなわけあるか、と突っ込みたいのだが、彼女には対しては無駄な労力だろう。
ジノからの言葉を受けてスザクが彼女へと近づくと、その手の中に一羽の鳥があった。
しっかりと掴まれている為、羽を羽ばたかせる音だけ響くだけでもちろん飛び立つことなど出来ない。


「持ってたら飛べないだろう。離してやれよ」
「飛ばなくていいの。アーニャのものなの。アーニャがずっと持ってるの」
「でも飛びたそうじゃないか。籠の中は嫌がるんじゃないか?」


というか籠があるようにも見えないけどな…と思いながらも、さすがに手にずっと持っているという選択肢はないだろう。
自分で持っておくというなら、籠に入れるしか手段はない。


「スザクも?」
「…え?」


突然自分へと振られた事に、反応が返せない。
スザクが鳥を飼いたいなんて言った事は一度もないし、動物はアーサーだけで十分だ。
猫に籠はないだろうし、アーニャの質問の意図が読めない。
彼女がずれた発言をするのは、今日に限ったことではないが。


「スザクだったら離してあげるの?捕まえた事あるんでしょ?大事な大事な鳥」
「!」







『ルルーシュ、何処行ってたの?』
『夕飯の買い物。本当に、お前は心配性だな』


ルルーシュの言葉の通り、冷蔵庫へと仕舞われている物はほとんどが食材だった。
今のご時世、ネット販売で済ませられる物でもルルーシュは自らの足で買いに行く事を好んだ。
ナナリーの口に入れる物だからきちんと自分で選びたい、とは妹思いの彼らしい言葉だ。


『君がじっとしていてくれるなら、こんなに心配しないよ』
『俺は籠の鳥じゃないんだぞ』


少しだけ呆れた様に口に出されたその言葉は、スザクにとっては暗く心の奥底で望んだ事だ。
それを言い当てられた気がして、目の前の身体を抱き締める。


『…君を、誰の目にも届かないところに置いておければいいのに』
『……馬鹿だな。俺はどこにも行ったりしないよ』


緩やかに背中へと回されるルルーシュの手の感触に、泣きたい程の幸せを感じずにはいられない。
もっとルルーシュを感じたくてその頤へと手を伸ばせば、アメジストの瞳がゆっくりと隠れてスザクを受け入れる。
口唇から漏れるルルーシュの声を聞きたくて、貪るように噛み付くと甘い声と共に背中へと爪を立てられた。


『ルルーシュ、痛いよ』
『…ちょっと、は…手加減しろ…!』
『だっていい声なんだもん、ルルーシュの声。…もっと聞きたい』
『こら待て、スザ……っ!』







ほんの一年前までは予想もしなかった現状と、永遠を夢見た日常の何て遠い事か。


『スザクっ!!』
『ルルーシュっ!!』


あの時確かに殺意を持って向け合った銃口、そして―――


「逃がすくらいなら…」
「アーニャ?」
「殺しちゃうから」


アーニャの手の中の鳥が短く鳴いて、そして冷たく床へと堕ちた。





―――ルルーシュ、待ってて。
君の羽根も身体も想いも全て、奪い取ってあげるから。


2008.02.11