すべてを忘れられたなら


『 忘れろ、お前の主を 』


諦められなかった存在は、ユーフェミアの騎士となった。
ただ唯一の執着を持った存在は、臣下の礼を彼女に取った。
白の衣装を身に纏い、長い髪をなびかせて歩くその姿に控えるように従う、白の騎士。


取り返してやる、絶対に―――!


何もかもを手に入れているはずの彼女が、ただ一つルルーシュが願った存在すらも奪っていく。
ならば、彼女の存在を消してしまえばいい、スザクの中から。


「……Yes、your… Highness」


絶対遵守の力。


世界を変える為に手に入れた力は、何人たりとも反抗を許さない。
もっと有効に使うべきだという、冷静な判断は既に失われていた。
ただ、彼の中のユーフェミアという存在が疎ましかった。
ただ彼が欲しかった。
世界を変える為にと大義名分を振りかざしても、ふとした時に求めるのはほんの些細な、願うのも馬鹿馬鹿しいほどの小さな幸せ。


「スザク」


ギアスの力から解放されたようで、呆けていたスザクの視線が通常通りルルーシュと合う。
スザクと絡む視線は、常に穏やかさを持ってルルーシュへと向けられる。
―――何かがおかしい。
普段のスザクとは何かが違う、と警鐘が鳴る。


「スザ…」


「―――君は、誰?」


他人の顔、他人の視線、他人に対する口調。
7年前に初めて見たよりも、ずっと大人になった他人に対する態度がそこにはあった。


…あぁ、そうだったのか―――


ただ一人、彼の心に住む主は決まっていた。
ユーフェミアではない、誰か。
消したのは、その心を攫っていたはずの存在。
それが誰かなのか、もうスザクは永遠に思い出せない。


「…あれ?」


流れる涙に気付いて、スザクは止まる事のないそれを拭った。
意味は分からない。
ただ、悲しさだけが溢れて止まらなかった。
それが何故かもわからなかった。


泣きそうな顔で笑う目の前の彼にも、スザクに心当たりはなかったけれど。



あとがき

ルルーシュが暴走したら(苦笑)
皇子騎士パロが好きなのがモロバレです。




2007.08.06