エネルギーチャージ。


スザクが扉を開けた時、生徒会室にはルルーシュ一人だった。
他メンバーはといえばそれぞれ仕事を抱えて出払っており、一人書類整理を任された――というより押し付けられたといった方が語弊がないだろう――彼一人が残される事となったのだ。
もちろんそれはスザクの知る処ではない。
ただ、彼にとって現状はとても幸運だったと言えた。
スザクの視界に入っているのは既にルルーシュの姿のみである。


「何だ、今日は仕事だったんじゃ……んんっ!?」


生徒会室に入る人物に気付いてルルーシュが顔を上げれば、抵抗する暇もなく接吻を受ける形となる。
ガタリと椅子の肘掛から身体が落ち掛けると、見越していたかのようにスザクの腕がそれを支え、ルルーシュの後頭部に回された手に更に力が籠められた。
慣れた感覚にルルーシュも身体が自然とそれを受け入れると、ルルーシュの息が上がる前に呆気なく解放される。


「はぁ……」
「『はぁ』は俺の台詞だ!何だ急に!」


いきなりの行動の後の溜息に、さすがにルルーシュも怒りを顕わにした。
突然の行動内容を批判しつつも、その後のスザクの態度に対して怒っている処が何ともスザクへの気持ちを代弁している。
スザクもそれは分かっているらしく、行動に対しての弁明はしない。


「ルルーシュ欠乏症で死にそうだった…」
「何だそれは」


言って、くたりとルルーシュに正面から覆い被さるように身体を預けたスザクは、ぴったりとくっついて離れようとしない。
いつ他のメンバーが戻ってくるか分からない状態でのこの体勢は、ルルーシュにとっては耐えられるわけも無く、もちろん引き剥がそうと試みる。


「おい、いつまでくっついてる気だ」
「んー…」


それでもやはり体格差はどう埋めようも無くて、ルルーシュの力ではスザクを離す事は出来ない。
抱き付いて離れないスザクに、どうしたものかと思案する。
と、予想外にするりと身体から手を離したスザクに、ルルーシュがついとその動きを追うように視線をずらした。
いつものスザクからすると、珍しい行動だったのだ。
大抵こういった状況の場合、他人の話し声などの気配がするまでスザクがルルーシュを離す事はない。
てっきり今日もそうだと思っていたルルーシュにとっては、全く想定外の出来事だった。


「…まだ足りない」
「おい!ちょ…待…っ!!」


しかしルルーシュの考えとは裏腹に、再びスザクに口唇を奪われる。
塞がれた口唇は角度を変えてルルーシュを翻弄し、先程よりもずっと深くルルーシュの思考を奪い取っていく。
一瞬解放されたかと思えばまた塞がれて、酸欠になる一歩手前でコントロールするかのようにスザクは執拗にルルーシュの舌を追い、絡める。


「ふっ…ん…」


次第に上がる息に混じって上がる甘い声が室内を満たしてゆく。
生徒会室内の空気が変わろうとしたその直前で、スザクは唐突にルルーシュを離した。


「ス、ザ…お前…っ!」
「ごめん、ちょっと手加減するの忘れてた」
「そういう問題じゃないだろう!」


と、開いた扉の音に、ルルーシュはスザクの行動の意味を悟った。
廊下に人の気配を感じ取って、計画的に止めたのだ、スザクは。
またそれも、ルルーシュにとっては腹立たしさを増徴させる材料になってしまう。


「あれ?スザクくんいつの間に……ってルルーシュどうしたの?顔真っ赤にして」
「何でもな…」
「会長さん、ルルーシュ体調が悪いみたいなので、クラブハウスまで送ってきていいですか?」
「スザク!?」
「あら、いいわよ〜」


ルルーシュの発言を遮って、スザクはミレイと話を進めて終わらせてしまった。
止める間もなく決められた帰宅にルルーシュが反論する間もなく、スザクの手には既に二つの鞄が持たれている。


「ごゆっくり〜」


そんなスザクへと、ミレイはリヴァルが見たら卒倒ものだろうと思われるウィンクを投げかけた。
長い付き合いの中で、ミレイの行動が遊び心だと分かっているだろう。
それでも無意識に眉をしかめるルルーシュに、ミレイは気付かない振りをする事にする。
彼女の行動にスザクは笑顔で応えると、それにもまたルルーシュの機嫌が下降するのが分かったが、あえてルルーシュへは視線を向けずにいた。
後の機嫌を直す事が出来るのは、この世でただ一人とミレイは知っている。


「じゃあお先に失礼します、会長さん」
「はい、じゃあね」


大人しくスザクへ付いて歩き出すルルーシュに、ミレイは溜息とも思えるような吐息を落とした。
伊達にルルーシュと長年付き合ってきているわけではない。
彼の隠そうとしている感情は、スザクに関する時だけ無防備になる事を本人は気づいているのだろうか。


「ま、ルルちゃんは鈍感だからねぇ」


それでも彼女は寂しいと感じつつも嬉しいのだ。
あのルルーシュが、感情を出せる相手がいるという事に。
そんな二人の姿が廊下の角に消えると、生徒会室に戻ったミレイは定位置の椅子へと腰掛ける。
彼女お気に入りの場所。
そこはちょうどルルーシュとスザクの定位置の真向かいの席。


「…ミレイちゃんは何でも知ってるのよん


つまりはそういうわけである。



2007.04.16


あとがき(反転)
こんなミレイちゃんが出てくる予定ではなかったのですが…。
ただ単に「ルルーシュ欠乏症」な枢木さんが書きたかっただけです。
自分からべったり出来ないルルーシュに、スザクが代わりにくっついてあげればいいとおもう(爆死)
えっと…そんなこんなで後編があるかも…です(汗)