ルルーシュから放たれた銃弾に、動きは最小でよかった。
少し首を傾けるだけで、インカムだけを撃ち抜いて銃弾は役目を終える。
狙い通りその向けられた銃へと弾を当てると、その身体を躊躇う事無く押し倒した。
カレンの姿は既にない。
走り去る足音に、何の興味も沸かなかった。
興味があるのは目の前の人物だけだ。
見慣れたアメジストの瞳は、組み敷かれても不敵な笑みを崩す事はない。
よく知っているはずの距離感。
常であればすぐに縮まるはずの微妙な距離だが、今後はもうこれ以上縮まる事はない。
逆にその身体を突き飛ばして距離を作る。
「ゼロ、君を終わらせる」
そう、ルルーシュではなく、『ゼロ』を。
俺が求めたのは、守りたかったのは、愛したのは、ゼロではなく、ルルーシュだ。
「ゼロもルルーシュも、俺だ」
「違う!」
その言葉に、突き飛ばしたはずの身体を掴み上げた。
弾みでマントの留め金が外れたが、そんな事は気にしない。
むしろ、こんな服を纏うルルーシュの姿など、見たくも無いのだ。
今すぐ全てを脱がせてしまいたい衝動が走る。
「違わないさ」
その首元を強く掴み上げたせいで、固く閉じられていた襟元の布地に僅かに裂け目が入る。
首のラインから鎖骨まで、暗い空間に浮かび上がるルルーシュの白い肌に思わず息を呑んだ。
見えたのは、微かに残る情事の跡。
いつもルルーシュを抱く時に、好んで跡を残していたその位置に。
「―――っ!!」
―――そこから、ここまでどうやって来たのかは記憶が薄い。
意識のないルルーシュを拘束着に着替えさせ、目覚めるのを待って謁見の間へと連れ出した。
意識のない状態のままで、終わらせる事は出来たかも知れない。
いや、終わらせる為に捕まえたのではない。
全てを、始める為だ。
「友達を売って出世するのか…!」
「そうだ」
だって俺達は友達だ、ルルーシュ。
だから、君はあそこにいてはいけない。
君と俺を別つ、あの場にいてはいけない。
「新たなる偽りの記憶を」
「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
悲痛な叫び声だけを残して、ルルーシュはその意識を途切れさせた。
もう、左目を押さえる必要もない。
そっとその手を退ければ、微かに目尻に浮かんだ涙がその手袋を微かに濡らしていた。
皇帝がその存在に興味を失ったように、背を向けたのを確認して、先程まで押さえつけていたその身体を緩やかに抱き起こし、立ち上がる。
「枢木。ルルーシュを殺せと、命じたらお前はどうした?」
「命に従うだけです。自分は、ブリタニアに忠誠を誓った身です」
「…その腕にある身も、ブリタニアの象徴たる血筋だな」
独り言のように答えを求めないその言葉に、腕の中のルルーシュへと視線を落とす。
意識を失った彼が次に目覚めた時、世界は変わっている。
エリア11に住む平凡なブリタニア学生の身分としての生を生きる事となるのだ。
それが、彼にとって最も屈辱的な生だとしても、彼の今までの人生の中で一番緩やかで年相応の生活が待っている。
スザクが望んだ、彼のとって危険のない穏やかな生活が。
「ルルーシュ、」
先に続く言葉は紡ぐことは出来なかった。
『君を、愛してるよ』
その言葉は、もう君に届く事はないから。