turn25 Re;







静かな離宮に響くのは、自らの足音のみだった。
回りを固める兵士達は、このエリアまで入ってくる事は出来ない。
完全なプライベートエリアであるこの場所は、セキュリティシステムレベルは最高まで上げてある。
そして、


「お疲れ様、ルルーシュ」


部屋に戻れば、そこには枢木スザクの姿がある。
あの戦いの後に、名誉の戦死として名を刻まれた墓が作られたはずの存在がここにあった。
たとえ侵入者が現れたとしても、スザクの存在があれば安全面の心配は皆無だ。


「約束の日取りが決まった」


さらりと告げたその言葉に、スザクが顔を引きつらせたのが分かる。
いつか来ると分かっていて、分かっていたけれども、この狭い世界での2ヶ月がまるでそれが夢のように遠い出来事にさせていた。
それが約束を果たす前の、つかの間の休息の時間だと分かっていたけれども、今までの溝を埋める貴重な時間には違いなかったからだ。


「…いつ?」
「明日だ」
「明日っ!? 何で今まで…!」
「言ったら、そんな顔をすると思ったからだ」


今にも泣きそうな、叫びそうなそのスザクに、ルルーシュはふわりとキスを送る。
濃厚な空気のない、慈しむように包み込むようなキスは、張り詰めた緊張を解くようにゆっくりとスザクから離れた。


「最後だ」
「ルルーシュ…」
「笑ってくれ、スザク」
「ルルーシュ…っ!」


思いきりその身体を引き寄せて抱きしめる。
そのスザクの力に、いつもなら文句を言うはずのルルーシュは何も言わなかった。
この痛みも、今日が最後だと分かっている。
何度もすれ違って、それでも忘れられずに愛し続けた日々は決して長いものではなかったけれども、短くも無かったように感じる。
ルルーシュにとっては、その記憶が持っていく全てだ。
自らの望みの残り、全てをスザクに押し付けて逝く自分はずるいのだと、分かっている。
残される苦しみは、ルルーシュが幼き日に経験したそのものだ。
いや、自惚れる事が許されるならば、それ以上かもしれない。
ただ、スザクだからこそ、ルルーシュという存在を引き継いでくれる唯一の存在だからこそ、ゼロレクイエムの遂行が為し得られるのだ。


「だから、最後に」


刻み付けてくれ。


スザクの全てを自らに取り込んで、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』と共に『枢木スザク』を連れてゆくから。


「今日が、君を愛した男の最期の日だ。…ルルーシュ」
「ありがとう。そして、」
「謝らないで。これは、俺たち二人で決めた事だ」
「…そうだな」


深い接吻で霞がかった意識の中、机上に置かれたゼロの仮面が微かに音を立てた気がした。


2008.09.28